
心臓血管外科インタビュー
INTERVIEW

心臓血管外科 教授
榊原 賢士
[専門領域]冠動脈バイパス手術/心臓弁膜症手術/大動脈手術/末梢血管疾患治療
今年新たに着任した榊原賢士教授のもと、心臓血管外科は末梢血管疾患から心臓疾患、大動脈瘤・大動脈解離まで、幅広い疾患に隙間なく対応できる体制を整えています。「手術ができるかどうか」ではなく「その患者さんにとって本当に手術が最善なのか」を常に問い直し、年齢だけでなく生活背景やご本人の希望まで含めて治療方針を決定する。地域の先生方とは「顔の見える連携」を軸に、まだ手術が必要か分からない段階からのご相談、そして治療後の共同フォローまで、切れ目のない連携を目指しています。
学生時代から外科に興味があり、医局の上級の先生に誘われて研究の手伝いをしていたことがきっかけで、この道に進みました。私が入局した当時は、医局が現在のように臓器別に細分化されておらず、心臓血管外科、呼吸器外科、消化器外科、小児外科などを5〜6年間ローテーションしながら経験したうえで、自分の専門分野を決めることができました。その中で心臓血管外科を志したのは、手術によって患者さんの命を直接救うことができ、治療の結果が目に見えて分かる診療科であることに大きな魅力を感じたからです。分かりやすく言えば、悪くなった弁や血管を直せば全身の状態が良くなる。そうした結果の見えやすさに惹かれました。
診療で最も大切にしていることの一つは、患者さん一人ひとりにとって「何が一番良い治療なのか」を考えることです。年齢だけで判断するのではなく、体力や生活状況、ご本人やご家族の希望まで含めて治療方針を決めています。心臓や大動脈の手術は患者さんにとって大きな治療ですから、「手術ができるかどうか」だけではなく「その患者さんにとって本当に手術が最善なのか」を考えることを重視しています。一方で、心臓血管疾患の中には時間との勝負になる病気もあります。緊急性が高い場合には迅速に対応し、時間をかけて検討できる場合には、できるだけ分かりやすく説明したうえで、患者さんに納得して治療を受けていただくことを心がけています。

診療で最も大切にしていることの一つは、心臓血管外科だけで診療は成り立たないということです。地域の先生方、院内の他科の先生方、看護師や臨床工学技士、理学療法士、管理栄養士、医療事務をはじめとするコメディカルスタッフの皆さんと、しっかりコミュニケーションを取りながら診療にあたることを大切にしています。
個人主義になってしまうと診療の質にばらつきが出てしまうため、難しい症例や判断に迷うケースでは、他科の先生にコンサルテーションをお願いしたり、チーム内のカンファレンスでよく話し合ったりしたうえで、最終的な治療方針を決めるようにしています。誰が診察しても一定水準の診療を受けられ、情報共有もスムーズであること。医師同士がそれぞれ症例を抱え込むのではなく、チームとして偏りのない治療を提供できる体制を、これからも守り続けたいと考えています。
(左から)木村医師、榊原医師、本橋医師、神谷医師
心臓や大動脈の手術と言われると、患者さんもご家族も大きな不安を感じると思います。そのため私は、できるだけ専門用語を使わず、「なぜ治療が必要なのか」「治療をしなかった場合に何が起こる可能性があるのか」「手術にはどのようなリスクがあるのか」を分かりやすくお話しするようにしています。一度の説明ですべてを理解していただくのは難しいこともありますので、分からないことがあれば何度でも質問していただいて構いません。
患者さんにとっては、手術が成功することだけがゴールではありません。退院して自宅に戻り、以前の生活に近づいていくところまでが治療だと思っています。「この患者さんは治療後にどのような生活を送りたいのか」というところまで考えながら、患者さんとご家族に向き合うことを大切にしています。ご自身の手を離れて地域の先生にお戻しする紹介のことを考えると、どうしても治療そのものに目が向きがちですが、治療はそれだけがすべてではありません。この視点をしっかりと地域の先生方にもお伝えできれば、より良い形で紹介・逆紹介のビジョンを描いていただけるのではないかと思っています。

これまで診療に従事してきた地域では心臓血管外科医の数が決して多くなかったこともあり、末梢血管疾患から心臓疾患、大動脈瘤、大動脈解離まで、心臓血管外科領域を幅広く診療してきました。当院でも現在のスタッフで、冠動脈バイパス手術、心臓弁膜症に対する手術、大動脈手術、末梢血管疾患の治療など、心臓血管外科領域全般に対応しています。特定の術式に偏ることなく、どのような患者さんが来ても一例一例に責任を持って対応できることが、当科の強みだと考えています。
「胸の痛みが続く」「以前より息切れが強くなってきた」という患者さんの場合、まず大切なのは、症状がいつから始まり、どのような状況で起こるのかを詳しく伺うことです。歩いた時や階段を上った時に胸が締め付けられるように痛む場合には狭心症を疑いますし、息切れの場合には心臓弁膜症や心不全なども考えます。基本的には心電図、胸部レントゲン、血液検査、心臓超音波検査などを行い、必要に応じてCTや冠動脈造影などの検査を追加します。ただし、非常に強い胸痛が突然出現した場合には、心筋梗塞だけではなく大動脈解離も考えなければなりません。大動脈解離は発症から短時間で重篤な状態になることがあるため、緊急でCTを行い、必要であれば直ちに手術を行います。検診異常や聴診で心雑音を指摘されて紹介いただく患者さんは、時間をかけてじっくり検討できるケースが多い一方、こうした緊急性の高い症例は救急搬送されることも多く、地域のクリニックを経由せずに当院へ来られることも少なくありません。
近年注目されている手術方法としてMICS(低侵襲心臓手術)やステントグラフト挿入術などがあります。当科でも専門のスタッフが対応をしております。
MICS(低侵襲心臓手術)は、通常の胸骨正中切開(胸の中央を約20cm切開する方法)と異なり、患者さんの体格や疾患などによって適応を慎重に判断したうえで、右胸の肋間を小さく切開して心臓にアプローチする方法です。胸骨を切開しないため身体への負担を軽減できることが期待され、術後の早期離床にも有利な場合がありますが、すべての患者さんに適しているわけではありません。また、大動脈瘤についても、従来の人工血管置換術に加え、カテーテルでステントグラフトを留置する治療や、開胸手術とステントグラフト治療を組み合わせるハイブリッド手術という選択肢があります。末梢動脈疾患も、バイパス手術だけでなくカテーテルによる血管内治療を選ぶ症例が増えています。低侵襲治療には身体への負担を軽減できるというメリットがありますが、従来の手術の方が適している患者さんもいます。そのため、それぞれの治療法の利点とリスクを検討し、チーム内のカンファレンスで慎重に治療方針を決定しています。
どの治療法が適しているかは病変の形だけでは決まらず、年齢、心臓・肺・腎臓の機能、フレイル(加齢に伴う心身の衰え)の程度、日常生活の状態などを総合的に判断します。同じ年齢でも患者さんの状態はさまざまです。驚くほど元気に過ごされているご高齢の方もいれば、比較的お若くても持病の影響で体力が低下している方もいます。
そのため、ご本人の普段の活動量や生活の様子、認知機能の状態といった情報を、紹介状に一言加えていただけると、実際にどこまで治療に耐えられるか、治療後にどのような生活が送れそうかを判断するうえで大いに役立ちます。手術は決して小さな負担ではありませんから、治療を希望されていても、かえって体力を落としてしまう可能性がある場合には、そのリスクも含めてご本人・ご家族とよく相談したうえで方針を決めています。
手術や入院治療が終了し、状態が安定した患者さんについては、できるだけ地域のかかりつけ医の先生方に日常診療をお願いしたいと考えています。高血圧、糖尿病、脂質異常症などの管理は、心臓血管疾患の再発や進行を防ぐうえでも非常に重要です。一方、人工血管や人工弁の状態、大動脈径の変化などについては、当院でも半年から1年に一度、定期的にCTや心臓超音波検査を行い、専門的なフォローを継続します。普段の診療は地域の先生方にお願いし、定期的に当院で専門的な検査を行う。何か変化があればすぐに再紹介していただき、こちらで問題を認めた場合には速やかに情報を共有する。そうした「顔の見える連携」、いわば二人主治医制のような形を、これからも大切にしていきたいと思っています。

地域の先生方には、日頃から患者さんをご紹介いただき、本当に感謝しています。心臓血管疾患の場合、「まだ手術が必要かどうか分からない」という段階でご紹介いただいて全く問題ありません。労作時に胸痛や胸部圧迫感がある、最近息切れが強くなってきた、健診や診察で心雑音を指摘された、胸部レントゲンで大動脈の拡大を指摘された、CTや腹部エコーで大動脈瘤が見つかった、下肢が冷たい・しびれる、歩くとふくらはぎが痛くなり休むと改善する、足の傷がなかなか治らない。こうした患者さんは、ぜひ一度ご相談いただきたいと思います。特に大動脈瘤は、かなり拡大するまでほとんど症状がないため、健診や他の疾患の検査で偶然発見されることが非常に多い病気です。「まだ小さいから紹介するほどではないのでは」と迷われる場合でも、一度画像を見せていただければ、今すぐ治療が必要なのか、経過観察でよいのかを判断できます。
ある患者さんは、以前できていた畑仕事が徐々にできなくなっており、ご本人は年齢のせいだと思っていたそうです。かかりつけの先生が診察で心雑音に気づき、詳しく検査したところ、大動脈弁狭窄症であることが分かりました。大動脈弁狭窄症は、いわば心臓の出口にあたる弁が硬くなって狭くなってしまう病気です。ケチャップの容器の口のように狭くなっていて出にくい状態を思い浮かべていただくと分かりやすいかもしれません。しっかり絞って圧をかけないと出ないように、心臓の出口も狭いため強い圧で血液を絞り出さなければならなくなり、全身に十分な血液が行き渡らず、少し動いただけで息切れが生じます。手術で硬くなった弁を新しいものに取り替えると、自然に流れが良くなるので、心臓の負担が一気に軽くなるのです。退院後の外来で、以前は難しかった畑仕事に少しずつ戻れるようになったご様子を伺った時は、私自身もとてもうれしく思いました。
また別の患者さんでは、はっきりとした自覚症状がなかったにもかかわらず、かかりつけ医の先生が胸部レントゲンのわずかな変化に気づいてくださったことで、大動脈解離が見つかり、事なきを得たケースもあります。私たちは手術だけを担当している立場だからこそ、こうした小さな変化に最初に気づいてくださる地域の先生方の存在の大きさを、診療の度に感じています。
「大動脈が少し太いと言われたが、このまま経過観察でよいだろうか」「高齢なので手術は難しいのではないか」。そういった段階でも、ぜひお気軽にご相談ください。現在は従来の手術だけでなく低侵襲治療を含めてさまざまな選択肢があり、治療方針は一人の医師だけで判断するのではなく、心臓血管外科チームで十分に検討したうえで決定しています。地域の先生方と私たちが一緒になって患者さんを診ていくことで、病気を早い段階で発見し、最も適切なタイミングで治療につなげることができると考えています。
お問い合わせ
医療機関からのお問い合わせは、医療連携室で承っております。
受付時間をご確認の上お問い合わせください。
東京医科大学八王子医療センター
総合相談・支援センター医療連携室
TEL: 042-665-5611 (代表)
平日:9時~17時
第1・3・5週 土曜日:9時~13時
休診日:土曜日(第2・4週)、日曜日、祝日、4月の第3土曜日(大学創立記念日)、年末年始
患者様に関するご相談は、お電話でお問い合わせください。
ACCESSアクセス情報
〒193-0998 東京都八王子市館町1163番地
JR高尾駅/京王線高尾駅
高尾駅南口より京王バス3番乗り場(医療センター経由)館ケ丘団地行き「医療センター」下車
JR横浜線/八王子みなみ野駅
無料シャトルバス運行中
シャトルバス時刻表