
歯科口腔外科インタビュー
INTERVIEW

歯科口腔外科 診療科長
長谷川 温
[専門領域]]口腔がん治療
東京医科大学八王子医療センター 歯科口腔外科では、智歯抜歯やインプラントをはじめ、顎変形症の手術、口腔内の炎症・外傷、顎関節症、薬剤関連顎骨壊死、口腔がんに至るまで、幅広い口腔外科領域の診療を行っています。 なかでも口腔がんに対しては、ガイドラインに準拠した標準治療を基本に、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、形成外科、臨床腫瘍科など他診療科と密に連携し、南多摩医療圏における拠点として、早期発見から治療後の機能回復まで切れ目のない診療提供を目指しています。

当科では、大学病院の特性を活かし、心疾患や糖尿病、その他の基礎疾患を有する患者さんに対しても、医科との緊密な連携のもとで安全に治療を進める体制を整えております。また、周術期の口腔ケアは、肺炎や創部感染などの術後合併症予防に寄与することが明らかとなっており、当院全体として積極的に取り組んでおります。加えて、骨粗鬆症治療薬であるビスホスホネート製剤やがん治療、関節リュウマチに用いられるデノスマブ製剤、血管新生阻害薬、免疫調整薬など骨に影響する治療薬に関連しておこる顎骨壊死(薬剤関連顎骨壊死・MRONJ)は増加傾向にあります。これまで保存的治療が基本とされていたMRONJの治療ですが、近年は治癒が可能な疾患であることが明らかになってきました(薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023)。当科においても、原疾患の治療に配慮しながら、主治医とよく連携したうえで、積極的に外科的治療を検討しております。MRONJは患者さんの苦痛が強く、QOLの低下をきたす疾患であるため、口腔ケアの早期介入に加え、医療関係者や患者家族への啓蒙活動も積極的に行って参りたいと考えています。
「口腔がん」は舌や歯肉、頬粘膜、口蓋、口底などに発生する悪性腫瘍の総称であり、組織型の多くは扁平上皮がんです。当科では、ガイドラインに準拠した標準治療を基本に、手術・化学療法・放射線治療を組み合わせた集学的治療を行っております。さらに、手術後には咬合や嚥下機能をはじめとする口腔機能の回復を重視し、「治す」だけでなく「元の生活に戻る」ことを支援しています。私はこれまで口腔がん治療を専門に学び、現在も口腔癌治療に関するガイドラインの作成委員や学会誌の編集査読委員、光免疫治療の術前検討委員長など学術的な活動にも力を入れております。国内の口腔がん治療における主要施設の先生方(耳鼻咽喉科・頭頸部外科、腫瘍内科、歯科口腔外科)との連携も図っておりますので、どうぞ安心してご紹介ください。患者さんの生活背景や希望を尊重し、最善の治療を提案することを常に心がけ、地域における口腔がん治療の中核施設として早期発見から機能再建に至るまで、一貫した治療を提供してまいります。

光免疫療法は、がん細胞に選択的に結合する抗体薬に光感受性物質を付加し、近赤外線レーザーを照射してがん細胞を破壊する治療法です。2023年12月から口腔外科領域でも切除不能な再発口腔がんに対して保険適用となり、「第5のがん治療」として注目されています。 私は前任地で、日本初となる歯科口腔外科医による症例を担当したほか、日本口腔腫瘍学会の運営する口腔がんアルミノックス治療運営委員会において、術前検討委員長を務めております。今後、当センターでも、再発例や手術困難例への適応を積極的に検討していきたいと考えております
昨今は、デジタル技術の進展により、治療精度が飛躍的に向上しています。当科では、Computer Assisted Surgery(CAS)を導入し、CT画像をもとに3Dプリンタで骨切除用ガイドや検査用のデバイスを作成することで、計画的かつ精度の高い手術が可能となりました。とりわけ再建手術においては、審美性やインプラントの埋入位置まで考慮した再建計画を術前に建てることで、経験や勘に頼らない精度の高い手術を実現しております。

歯学部の学生時代、病院実習で初めて口腔がんの手術を見学しました。下顎歯肉がんの再建手術だったと記憶していますが、その数か月後、外来にこられた患者さんに対して、執刀した先生がその大きな背中を丸めて入れ歯を削り、食事ができるように丁寧に調整されていました。患者さんが「ご飯がたべられるようになりました。ありがとう。」と笑顔で報告された場面を目にし、がん治療は命を救うだけではなく、その後の生活を支えることが大切だと強く感じました。この経験が、私をこの分野に携わろうと決意した原点です。卒業後は口腔外科全般を学び、2013年から2015年までの2年間はがん研有明病院頭頸科で口腔がんの手術に対する研鑽を積みました。全国から訪れる難症例の多い現場で、寝食を惜しんで患者さんと向き合う先生方の姿から、私もこの領域で自分の役割を果たしたいと強く思いました。これまでの経験や、救えなかった患者さんへの思いが、今の私の原動力となっています。 診療では、患者様やご家族を「自分の家族」と思い、その背景や想いに寄り添うことを大切にしています。特に口腔がん患者さんは、治療後の咬合や外見について不安を抱かれる方も多く、ご相談の際にはデータや経験をもとに率直にお伝えし、安心につなげています。
当科は、口腔外科の幅広い診療で地域に頼られる存在でありたいと考えています。特に専門である口腔がんでは、南多摩医療圏における中核的な役割を担い、より良い治療を提供し続けます。近年は口腔と全身の健康の関係も広く知られるようになり、医科の先生方からも口腔領域についてのご相談が増えています。これからも地域と連携し、安心して任せていただける診療を続けてまいります。先生方におかれましては、口腔に関してお困りのことがございましたら、何なりとご相談いただけますと幸いです。
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